約 798,904 件
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/2393.html
【!】死にネタ要注意【!】 ハナシノブの続編 佐助×かすが 筆頭×いつき(少しだけでメインではありません) いつき=愛姫説採用 真田主従はどちらも子持ち キャラの年齢が30代~40代に突入 大坂夏の陣がベースになっており、死にネタを含んでいます。 苦手な方は激しくスルーを推奨です。 本編に未登場の史実キャラ、重綱・阿梅・幸昌(大助)・横山隼人(黒脛巾組)と、 オリキャラで佐助の子どもが出て来ます。 オリキャラ出過ぎですが、許せる方はお付き合い頂けると幸いです。 宜しくお願いします。 うたかた1
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1875.html
722 :???? ◆6l0Hq6/z.w:2009/04/06(月) 19 27 37 ID 1mHjakm.0 勝手知ったる他人の家、とはよく言ったもので。 俺にとってこの家は……その、なんだ。 第一の自宅である教会よりはマシな家だと信じたいところであるが。 「いや……やっぱりそれはないか」 呟いて頭を抱える。 この家があの教会と似たり寄ったりな理由はいくつもあるが。 あの教会に満面の笑顔で囚人をいびる看守みたいな神父がいるのなら、 この家には毎日のようにメルトダウンを起こす原子炉みたいな危険ブツが鎮座ましましていやがるか。 「まあ、どっちも退屈しないのはいいんだけどな」 後ろ向きに前を見上げて階段に足をかける。 時刻は午前七時。 この時間、この家の主が自力で起きるには早すぎる。 なにしろアイツときたら、放っておけば二度寝が昼夜逆転に繋がりかねない……というか何度かあったが。 ようするにアイツは朝に弱いヤツなので、誰かが貧乏クジを引いてやらなければいけないヤツなのである。 「……ここいら辺に俺が死んだらアイツの所為だって書いておいた方がいいかな……」 洒落にならない冗談を打ち切って目の前の扉をコンコンと叩く。 「起きろ遠坂、起きないと寝込みを襲うぞ。 ああもちろん性的な意味じゃなくって、きっちりと引導を渡してやるって意味だからよろしくな」 言って、手の甲が痛くなるまでノックしても反応なし。 ならば俺も覚悟を決めるしかない。 いい機会である。今度こそ遠坂にはヒトの痛みを知ってもらうコトにしようなんまいだぶなんまいだぶ。 「はいはい遠坂さん遠坂さん朝ですよお迎えですよというか今朝は自力で起きるって大言壮言をどこに置き忘れてきたんだおまえは」 一息で言い放って扉を開けると、そこには──── 「───、は?」 と、ここで俺の頭がおかしくなったんじゃないコトを確認したいんだが。 はたして俺は何を見てしまったのであろうか……? 【惨】まあ当然寝ぼけたまま着替え中の一糸まとわぬ遠坂さんなる人物のあられもない姿だよな。 【杯】信じらんねー、遠坂が自力で起きてるよオイこれって天変地異の前触れですかそうですか。 うたかたのユメ
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1883.html
793 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/04/21(火) 02 12 28 ID eqwUskK60 誰が一番驚いているのかは定かではないが、誰もが驚いていることだけは間違いないだろう。 俺と美綴をからかっていた凛は、表情というものをどこかに置き忘れてきたような面持ちで息を飲み。 俺たちを交互に見つめて慌てふためいていた美綴は、そうおいそれとお目にかかれない面白い顔と姿勢のまま硬直し。 よりにもよってこのタイミングでやってきたその男は、ポケットに手を突っ込んだ笑顔のまま身じろぎもしない。 誰もが無言で立ちつくしているのは、この不意打ちが筆舌に尽くし難いほど悪質だからか。 たとえば至近距離でチーターに出くわしたカモシカは、絶対に逃げられないという絶望から、パニックに陥いって身動きがとれなくなるという話を聞いたことがある。 不意打ちというものは最低限の思考すら奪い去り、パニックという厄介極まりない置き土産を押し付ける。 何が正しいのかも判らなければ、最善の行動など選べる筈もない。 「────────」 だと言うのにコイツは最善の行動を選んだ。 くるりと背中を向けて地面を蹴るその行動に一瞬の遅滞もない。 脱兎のごとく逃げ出した慎二の行動は、ずっと探していた相手が逃げようとしている理解した凛が「待て」と口を開くより迅い。 「────────」 さすがは慎二だ、と、口に出さず感心する。 飽きるほど繰り返されたが故に思考に先んじるその行動。 たとえばトイレの電気を消すように。 これこそは『妹から逃げる』という行動を習性の域にまで昇華させたダメ兄貴の業。 芸術の域にまで磨き上げれた“技”ではなく、極限にまで鍛え上げられた“業”こそが予想だにしなかった場所で妹と遭遇してパニックに陥りながら、それでもなお生存を信じて逃走に転じた間桐慎二ただ一つの強み。 「────────」 慎二は逃走に成功するだろう。 この中で一番不意打ちに弱い凛に最速の行動は望めない。 故に成功する。 間桐慎二は逃走に成功し、それを阻めなかった間桐凛は激発する。 故に俺は何としても極彩色の未来を防がなければならない……! 「な───なんだよ、なに邪魔してんだよオマエ……!」 「おまえが逃げると俺たちが迷惑する。……だから逃げるな。話し合うんだ、慎二」 襟首を掴む手に息を詰まらせる慎二に答える。 そうなのだ。少しはおまえに逃げられた凛と同じ場所にいる俺たちのコトも考えろバカ。 「はあ、なにワケわかんないコト言ってんだよ? この僕にあの女と話し合えって!?」 「安心しろ。あいつはもう怒っていないって言ってたから……たぶん大丈夫なんじゃないのか?」 「はあ? 何サマなわけ。たぶんで人を悪魔に引き渡そうとするこのエセ神父見習いはさぁ……!」 「人聞きの悪いことを言うな。たんに家出息子を家族に引き渡そうとしてるだけだろ」 心無い罵声に傷つきながらも暴れ狂う慎二を羽交い締めにする。 そうして呆れ顔の美綴を横目に振り返ると──── 「慎二」 目の前には右手を大きく振りかぶった女の子がいた。 見慣れた顔に浮かぶ見慣れぬ表情。 気難しいことで有名なこの少女は喜怒哀楽の表情を表に出さない。 その子は───間桐凛はあきれ返ってものも言えないという表情で喜びを。 くだらないコトを言ってしまったというような顔付きで怒りを。 無関心が板についたような態度で哀しみを。 つまらなそうに溜め息を吐いて楽しいと表現する女の子だったが。 「歯食いしばりなさいッ」 このとき彼女が浮かべていたのは本物の怒りだった。 いったい何があったのかなんて考える暇もない。 横殴りに叩きつけられたグリズリー級のベアは慎二を軽がると吹き飛ばし。 ……当然の事ながら慎二を羽交い締めにしていた俺も吹き飛ばされ。 二人仲良く二メートルはたたらを踏んで背中から倒れ込む。 「つ、あ────」 凛の平手をまともに受けた慎二と、クッション代わりに押しつぶされた俺のどちらがより痛い目を見たのかなんて、そんなコトを考えてどうするのか。 倒れた時に拘束を解いたのが悪かったのか、慎二の肘に鳩尾を痛打された俺は日頃の鍛錬不足を思い知らされて声も出ない。 「……言峰。おまえ───僕を庇って……!」 だと言うのに事実をここまで歪曲して、自分の都合のいいように考えられるのが間桐慎二の間桐慎二たる所以なのだが。 「凛、おまえェェェェェ!!!!」 なにがどうなっているのか。 一度はこちらに心配そうな顔を向けてきた慎二は、なぜか怒りに顔をひきつらせ、背後の凛に向き直ると同時に叫んだ。 「僕だけじゃなく言峰にまで手をあげやがったな!!!?」 これは窮鼠猫を噛むとでも言うのだろうか。 傲然と立ち上がった慎二が呆然と立ちつくす凛の顔に手の甲を叩きつけたのだ。 「────────」 「────────」 ……今日は本当に珍しいものを見る。 あの凛があんなに感情を露わにして、あの慎二が天敵に等しい妹に食ってかかっているのだ。 「おい、おまえらいい加減にしろ! くだらない事で言い争うより言峰を保健室に運ぶ方が先だろ!!」 そうして誰かの怒鳴り声を耳にしながら、俺こと言峰士郎の意識は闇に飲まれた。 「っ……」 「む……どうした? 顔色が悪いぞ。間桐に打たれた傷が痛むのか?」 「いや、脇腹の方は大したことない。タイガー……じゃない、藤村先生の話だと転んだときに脳震盪を起こしたらしいんで、気分が悪いのはその所為だな」 それから二時間が経ち、綺麗に並べられた椅子の上に座った俺は心配そうに訊ねる一成に答えた。 「……辛いなら救急車が来るまで保健室で寝ていても構わないぞ?」 「だから大したことない。……ただ少しだけ気分が悪いだけだ」 「ならいいが……言峰の自己申告はあてにならんのでな。俺がダメだと判断したら保健室に運ばせるからそのつもりでいてくれ」 難しい顔をした一成に「大丈夫だ」と片手を振って視線を転じる。 場所は新入生を含めた全校生徒が参列した体育館の中。 このあとクラス割りやら何やらを控えて期待と不安を胸に抱えた新入生はとにかく、俺たち在校生にとってはひたすら退屈な入学式もあと三十分もしたら終わる。 白状すれば吐き気をこらえるのに精一杯なのだが、あと少しの我慢だと思えば歯を食いしばって耐えられないこともない。 だが肉体の不調が精神的なものであるだけに、この吐き気は原因を解決するまで治まらないだろう。 「だがおまえにも困ったものだ」 「困ったものだって……俺がか?」 「ああ、俺は忠告した筈だぞ。あの二人には関わるなと」 ……そう。 この吐き気はあの兄妹が原因だ。 「あの二人を悪く言わないでくれ……あの二人は他の連中が言ってるほど悪いやつらじゃない」 「そういう問題ではない。俺とてあの二人が言峰を頼りにしている事は知っている」 「……………………」 「だがアレらの性向は本質的に自己に向いている。他人に向いている言峰との相性はあまり良くない。上手く言えんが、おまえたちの関係はあの二人がおまえに負担をかける依存型のものだ。詐欺師と被害者の関係と言ったら言いすぎになるが────」 そんな事は言われるまでもない。 この不調はあれから二人がどうなったかという不安によるもの。 誰かを救わなければならない言峰士郎は、この手で救えないモノとの相性が致命的なまでに悪い。 「美綴から聞いた話によれば、おまえは今回の騒動になんの責任もないそうではないか。……それどころか自ら仲裁を買って出たそうだな?」 「……ああ」 「あまり背負い込みすぎるな。無償の手助けを旨とするおまえの精神は尊いが、つぶれてしまっては元も子もない……と、これは常々おまえの善意に甘えている俺が言えた義理ではないな。許せ」 背負い込みすぎるなという指摘が辛い。 一成の気遣いは嬉しいが、俺はもう十年も昔に背負いきれない荷物を背負ったのだ。 だから後は、ゆっくりとつぶれるだけ──── 「────────」 こんな時にアイツがいたらというのは弱音なのだろうか。 だけどアイツと一緒にいる時間だけが言峰士郎の安息。 迷惑なんていくらでもかけてくれていい。 この手で救った確かなものが傍らにある時間だけが─────── 「む……? 誰か来たようだが……アレは新入生か?」 ……と? 『おい、誰だよアレ?』 『遅刻かぁ? でも結構かわいいよな?』 『あんなにきょろきょろして───なんか誰かを探してるんじゃない?』 壇上の教師はもちろん体育館内の全校生徒が視線を向けるその先に、何故か……何故かアイツがいた。 癖のない真っ直ぐな黒髪を乱し、豪快に押し開けた非常口の扉に寄りかかって肩で息をするアイツ。 アイツ……そう、アイツだ。 もうとっくに入場して大人しくしていると思ったら、こんな────この学校が始まって以来の遅刻ぶりを皆の記憶に焼きつけるその姿。 責任は俺にある。 アイツがこの入学式(ここ一番)で何もやらかさないワケがないと、魂の奥底まで刻み込んでいた筈なのに……! 「ごめんなさい! わたしついうっかり居眠りして遅刻してしまいましたお兄ちゃん!!」 そうしてアイツは────俺こと言峰士郎の妹分である遠坂桜は。 この人ごみの中から俺を見つけ出し、むやみやたらに肥大した胸をぷるんと揺らして頭を下げながらそう叫んだ。 ……ゴッド。 俺なにか悪いコトしましたか……? 「────────」 ざあっ、と館内全ての人間が桜の視線を追いかける。 このままでは万事休すだ。 まったくアイツは俺をお兄ちゃんと呼ぶなとあれほど口を酸っぱくして言い聞かせたのにと混乱の極みに達した頭の中で毒づきながら周囲に倣う。 ようは他人のふりをして「アイツのお兄ちゃんって誰だ?」と言わんばかりに左後ろを見たのだが。 ……さて。 この角度。左から二番目の席に陣取った俺の後ろには一人しか座っていないのだが。 その席に座っているアイツの『お兄ちゃん』とは誰だろうか……? ●現在凛ルート(他にも桜ルート慎二ルート?ルートなどがあり、凛ルートからの他ルートへの分岐もある) *遠坂桜好感度初期値より+1 *間桐凛好感度初期値より+4 *間桐慎二好感度初期値より+1 *美綴綾子好感度初期値より+1 *柳洞一成好感度初期値 *タイガースタンプ一個獲得 【汗】……いや。いくらなんでも女の子の凛をお兄ちゃんと呼ぶのは無理があるよな……(凛好感度+1、桜好感度+3) 【涙】すまない、と心の中で慎二に手を合わせる(慎二好感度+1、凛好感度-1) 【洟】────後藤くんなら適任やもしれぬ(タイガースタンプ一個獲得) うたかたのユメ 第6話 うたかたのユメ
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1881.html
765 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/04/15(水) 00 44 34 ID bvz89JXQ0 長い休日の後とは思えないほど清潔な板張りの空間に、げんなりと頭を振った俺は無言で足を踏み入れる。 本当ならきちんと挨拶してから敷居を跨ぐのが礼儀なのだろうが、そんな気になれない。 まったく桜といいあの兄妹といい……トラブルを起こす前に相談する気はないのだろうか? 「……まあ、そんなわけないか」 本人に自覚がないのだから性質が悪い。 なにしろ決まり文句が「なに怒ってんのアンタ」だ。 ……くそ。 どいつもこいつもマイゴッドの天罰を期待したいヤツラめ。 おまえらなんてアイツの隣にある天国の特等席で幸せになってしまえ。 「あ、言峰」 その声で情けない愚痴が中断される。 気が付くと目の前には馴染みの部員がいた。 「やあ、言峰が自分からここにくるなんて、珍しいコトもあるもんだね。 ははあん……さてはようやく観念して弓を持つ気になったのかい?」 馴染みの弓道部員───美綴綾子は上機嫌に話しかけてくる。 去年の春にふとした気の迷いで弓をもって以来、二言めには入部を迫る彼女だったが、残念ながらその話には応じられない。 「いや。悪いが今日は、藤村先生に頼まれて間桐を引き取りにきただけだ」 自分でもどうかと思うほどぶっきらぼうな台詞に、美綴は俺に話しかけてくる前の表情に戻ってため息をつく。 「ああ、助かったよ言峰。取りつく島もなくて困ってたところなんだ」 やっぱりそうかと、目の前の女傑に倣ってため気をつく。 「それで間桐は?」 「更衣室でアイツが来るのを待ってるってさ」 ……なるほど。 間抜けな獲物がノコノコとやって来るのを待っているワケか。 「更衣室で着替えているとかないよな?」 「ないね。それに相手がお前なら着替え中でも気にしないだろう、アイツも」 ……それはあまり嬉しくない過去だったりする。 まあ責任はどちらかと言えば俺にあるのだが、学校の連中にアイツの世話役と認識されたのは如何ともしがたい。 「とりあえず間桐の相手は任せてもらって構わないが、話をつける前にアイツが来ると面倒だ。もし来たらこっそり事情を説明して逃がしてくれ」 「ああ、頼りにしてるよ言峰」 言って、美綴綾子は闊達に笑った。 おそらく彼女の中では、もうこの件は終わった話になっているのだろう。 曰く、言峰に任せたのだから大丈夫だと。 ……まったくどいつもこいつも。 少しは実行犯の苦労も考えろバカ。 無責任な視線に後押しされて更衣室に踏み込むと予想通りのモノを目にした。 贅沢にも畳を使った床に行儀悪く片膝を立て、事もあろうに煙草を咥えてぼんやりする少女の姿。 「久しぶりだな、凛」 間桐凛───それが目の前の少女の名前だ。 「……あ、士郎?」 日本人離れした青い髪と青い瞳。 俺には正直ピンとこない話だが、周囲の人間から『絶世の美少女』とまで言われているアイツの妹は、いつもの毅然とした態度からは想像もつかないほどだらけた視線で見上げてきた。 「煙草は止めろと言ったはずだぞ」 語気を強めて火のついたタバコを凛の口元からつまみ取る。 「なんでよ、煙草くらいいいじゃない。別にマリファナとか大麻とかはいってないわよ?」 「入ってなくても駄目だ。煙草なんて、女の子の体に悪い影響しかないって知ってるだろ。少しは生まれてくる子供のコトも考えろバカ」 不服そうに見上げてくる凛にそう言うと、彼女は驚いたような顔をして口を開いた。 「……なにそれ? あんたって、わたしに自分の子供を生ませる気でもあるわけ?」 「ない」 「そう……それならわたしが煙草を吸ってもアンタに関係ないでしょ?」 「関係ならある。少しは自分を大切にしろって何度も言わせるな」 凛に返す言葉は常に小言じみたものになる。 「……うるさいわね。わたしがどうなろうとアンタには関係ないでしょって、それこそ何度も言わせるなっていうのよこのバカ」 そして、俺に返す凛の言葉も険悪になるのが常だ。 俺とアイツがそうであるように、アイツとの付き合いから始まった凛との付き合いも長い。 「だから関係ならあるって言ってるだろ。俺だって、おまえにもしものコトがあったら心配ぐらいするんだからな」 「そう───なら言っとくけど、明日にでもわたしが血まみれの肉塊で発見されても驚かないことね」 間桐凛───学校の成績は優秀で、運動神経も抜群。 容姿と振る舞いにも隙がなく、天は二物も三物も与える事の生きた実例みたいな少女の欠点が、この、どうしようもないほどに他人を拒絶する言動だ。 踏み込めば踏み込むほど強まる拒絶を前に、大抵の人間はこの少女と関わることを諦める。 事実、彼女に言い寄る男は両手の指でも数えきれないほどいたが、残念ながら好意的な反応を引き出せた者はいない。 いや、それどころか会話を成立させられた人間がどれほどいたか。 彼女は誰とも関わらず、誰にも関わらせない。 「だいたいアンタはなんだってわたしに関わろうとするわけ? 別にアイツの友人だからって嫌われ者の妹の面倒までみるコトないでしょ?」 その拒絶は相手が俺であっても例外ではない。 学校の連中には「あの間桐と会話を成立させられる唯一の人間」と思われている俺だが、まあ実際にはこんなものだ。 アイツの家で知り合ってから四年。 放っておけずに関わり続けた俺は、だが未だにこの少女を救えずにいる。 だが、だからと言って諦めるわけにはいかない。 多くのモノに救われた言峰士郎は多くのモノを救わなければならない。 それが言峰士郎の存在理由。 故にそれが出来ないのなら、言峰士郎に存在していい理由はない。 「別におまえを嫌ってるヤツなんていないぞ? ただ気難しいヤツだなって思われてるのは確かだけどな」 凛は再び驚いたように俺を見上げる。 「みんな本当はおまえと仲良くやっていきたいと思ってるんだ。だから自分から嫌われるようなコトをするのはよせ」 ……凛は無言。 驚いたような表情を引っ込めた少女は、つまらなさそうに俺を見上げてきた。 「……だったらなんで断ったのよ……」 「? 何の話だ?」 そうしてぽつりと呟かれた言葉に首をひねる。 「わたしを抱かないかって話」 思い出す───凛が言ってるのは一昨年の話だ。 それまでぎこちないながらに上手くいっていた兄妹の関係が決定的に破綻したあの日。 アイツが港の指定席を獲得するにいたったあの日、事情を訊きにいった俺は凛に誘われ、そして断った。 これまでその理由を説明する事はなかったのだが、まさかその事がこの少女の傷になっているとは思わなかった。 「そんなの断るに決まってるだろ、普通」 だから俺は思うところを説明することにした。 「普通ってなんでよ」 またしても不服そうに見上げてきた少女に告げる。 「そういうコトはきちんと結婚してからじゃなきゃダメに決まってるからだ」 ……そう。 男女の営みは、神と隣人に祝福された夫婦にのみ許されたコトなのだ。 「────────」 凛はまたしても無言。 どうだ、恐れいったか。 曲がりなりにも神父の息子らしい、模範的な解答に満足する俺だったが。 「ぷっ────あははは!」 ……コイツは失礼にもゲラゲラと笑い転げやがった。 「ああ、おっかしい────あんた今の本気?」 「おう」 「ふうん……やっぱりアンタってバカの見本ね」 「余計な御世話だ。……それよりなんだってこんな朝早くから弓道部にいるんだよ。それもみんなのタイガーを泣かせやがって」 そして失礼極まりない評価に傷つきながらも、ようやく訊きやすい雰囲気になってくれたので本題を切り出す。 「──────泣いてた?」 「おう、バッチリ泣いてたぞ僕らのタイガー」 途端にバツが悪そうな顔をする凛。 コイツも別に周囲の人間を傷つけたくて角を立てているわけではないのだ。 「それで理由はなんだよ?」 「……ごめん。ただアイツがね……慎二が春休みの間ずっと家に帰ってこなかったから探してたのよ」 やっぱりそうかとため息をつく。 「慎二は『僕が家に帰らないのは僕を必要とする女の人がいるからさ』って言ってたけどな」 「馬鹿ね、そんなワケないでしょ。自分の家があるのにホテル暮らしなんかして……なに考えてんのよあのバカ」 まあその資金が尽きたときは港で段ボール暮らしなのだが。 「……いいわ。アイツに会ったらもう怒ってないから帰ってらっしゃいって伝えてくれない? わたしよりあんたから言ってもらったほうが安心するでしょ、アイツも」 そして、コイツに首根っこを掴まれて自宅に連行されるのが慎二のライフワークなのであるなんまいだぶなんまいだぶ。 「いいけど、あまりいじめるなよ慎二のコト」 「……いじめてない。ただアイツがわたしにいじめられてるって被害妄想に凝り固まってるだけ」 実際のところはどうか知らんが、それなりに落着きを取り戻した凛の態度を鑑みるにもう大丈夫だろうという結論に行き着く。 「じゃあ行くけど、おまえはどうするんだ?」 「ん……わたしは綾子に謝っとく」 「そうか。それじゃあまたな、凛」 振り向いて、片手を振りながら立ち去ろうとすると。 「士郎……」 その背中に、どこか躊躇いがちに言葉を切った凛は──── 「……その、気にかけてくれてありがとう」 背中を向けたコトを後悔する。 もしかしたらコイツは初めて笑っているのかも知れないと思うと振り向きたくなるが、それはしてはいけない事だ。 悔しさと満足感を等分に更衣室を出た俺はこれからの事を考える。 時刻はまだ九時過ぎ。 入学式が始まるまで、まだだいぶ時間がある。 ……さて。 俺はこれからどうしたいと考えているのだろうか……? 【松】興味津津と聞き耳を立てていた美綴と少し話す。 【竹】惜しいと思うが美綴の相手は凛に任せよう。俺は慎二を探さないとな。 【梅】いや、どうせアイツは港の指定席だ。慎二の相手は学校が終わってからという事にして、俺は一成の様子を見に行こう。 【桜】そう言えば桜は……一度アイツの家に電話をかけた方がいいやもしれぬ。 うたかたのユメ 第4話 うたかたのユメ
https://w.atwiki.jp/utauuuta/pages/747.html
うたかた【登録タグ amem. う デフォ子 曲 曲あ行】 作詞:amem. 作曲:amem. 編曲:amem. 唄:デフォ子 曲紹介 守るために破壊しなければならない苦悩。と・いうようなイメージですが、お好きなように想像して楽しんでいただければ幸いです。 歌詞 (動画より書き起こし) おやすみ、ここにいるよ、大丈夫 ごめんね、こんなはずじゃなかったんだ そんな顔をしないで、お願い 泣かないで 君が歌、教えてくれたおかげで 私は「私」になれたの だから 今は歌わせて (「歌。君と歌を歌えれば、それだけで。それだけで、良かったんだ。 歌いたい。それだけなのに…でも、でも私は。私は…) おやすみ、ここにいるよ 大丈夫・・・ コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1877.html
738 :???? ◆6l0Hq6/z.w:2009/04/08(水) 20 26 57 ID t8HUYBSU0 シチューを煮込むコンロの火力を弱火にして、トーストをセットする。 今朝は洋食。クリームシチューにトースト、ベーコンエッグにツナサラダと、それなりに気合の入った朝食を用意する。 理由は簡単。長年の経験から善後策を協議するに、アイツは食べ物で釣るのが一番だという結論が出たからである。 「───わ。こんなに豪華な朝食は久しぶりです」 効果は覿面だった。 制服に着替えた桜は驚きが混じった笑みをほころばせ、小躍りしながらテーブルの前に座った。 「冷蔵庫にロクな物が無かったんでな。こんなモノしか用意できなくて悪いが、今日のところはこの程度で勘弁してくれ」 「……なんだか微妙に失礼な謙遜の仕方ですね」 そうかな、と首をひねりながらエプロンを取り外す。 一時はこちらに剣呑な視線を向けてきた桜だったが、不機嫌を貫くには目の前の誘惑が大きすぎる様子で。 ゴクリと喉を鳴らした桜は、ちらちらとこちらの顔色を窺ってきた。 要するに「もう食べていいですか?」と訊きたいのだろう。 「食うのは構わないが、せっかくの制服を汚さないようにナプキンを首に巻こうか」 「ナプキンですか……でもアレって小さいから首に巻くのは難しいと思うんですけど?」 「そのナプキンじゃなくてだな……いや、いい。エプロンを着けるから大人しくしていろ」 「え、食べる時にエプロンを着るんですか───わわ、今わたしのおっぱい触りました!」 「不可抗力だ。暴れるなこの馬鹿」 作り手の立場から言わせてもらえば、自分の作品───この場合は朝飯だが───を評価されて嬉しくないわけはないのだが。 この何かと足りないところの多い妹分には、まず小言が口に出る習慣になっている。 「……今朝は裸も見られちゃったし、わたし的に散々です」 「もしもし遠坂さん? そういう台詞は一昨年まで俺と一緒の風呂に入りたがってた過去をどうにかしてから言ってくれないかな?」 とても落ち込んでいるとは思えない表情で、探るような視線を向けてくる困り者の妹分に、コツン、と軽めの拳骨を落として続ける。 「いいからさっさと食え────九時半までに登校すればいいおまえと違って、準備やら手伝いやらがある俺はそろろそ出ないとまずい」 「……はい。いただきます」 「いただきます、アーメン」 時間がないので食事時のお祈りも一言に省略。 本音を言えば食事そのものも省略したいのだが───にこにこと満面の笑みを浮かべて料理を口に運ぶコイツには、どうしても言っておかなければならないコトがあるのである。 「……ところで桜」 「はい、何ですか?」 「俺が誰かもう一度言ってもらえるかな?」 「お兄ちゃん?」 「ブブー! 不正解の桜さんにはもう一度回答の機会が与えられます。ほれもう一度俺が誰か言ってみろ」 「……お兄さまって呼んだ方がいいんですか?」 「いや、そうじゃなくてだな────」 思わず突っ伏したくなるのを我慢して、この頭の中がかわいそうなお嬢様に事実関係を確認する。 「……そもそも俺たちは兄妹でもなんでもないワケなんだが」 「ああ、なるほど」 すると桜は珍しくすんなりと頷いて続けてきた。 「そうですよね、兄妹だと結婚とか性交とかもできませんよね」 …………。 「そうでした。わたしも十六歳になったんですからそういった申込みをされてもおかしくないし、そういった申込みに応じても問題ない年ごろでしたね」 うんうんと力強くうなずいた桜は、そこでようやく自らの発言がとんでもなく破廉恥だった事に気づいたように顔を赤くして──── 「……ひょっとしてわたしとエッチなコトをしたいからお兄ちゃんって呼ばれるのが嫌なんですか?」 そんなとんでもない台詞を口にしやがったのである。 「────」 暗転する意識を気力で堪える。 ……ゴッド。 何故アナタはこの哀れな子羊にこれほどの試練をお与えになりますか……? 『おまえも本当は理解しているはずだ──────それは私に娯楽を与える為だとな』 「黙れクソ親父」 正気と狂気の狭間に浮かんだ性悪神父に悪態をついて、俺こと言峰士郎は現実を向き合う。 「わたし士郎さんなら応じてもいいんですけど……まかり間違って出来ちゃった婚になっちゃったら遠坂の娘としてそれはどうかという話になりますので、その……」 「とりあえずそれはないから安心してくれ」 わずか数秒────たったそれだけの時間でここまで妄想できる天然ぶりに、改めて戦慄しつつもきっぱりと断言する。 「ないんですか?」 「ない。……それより桜」 残念そうに顔を曇らせる桜の反応を無視して本題に入る。 「前にも言ったが俺たち二人だけの時は、俺の事をさっきみたいに士郎さんでも、昔のように言峰くんでも好きなように呼んで構わない」 「お兄ちゃんでも?」 「ただし条件がある」 「無視しないでください」 桜は頬袋にどんぐりを詰め込んだハムスターのようにむくれるが、俺としてはこれだけは譲れない。 「ひとつ、俺のことをそう呼んでいる事を誰にも口外しないこと」 「むー、わたしだってそこまで考え無しじゃありません。こういうのは二人だけの秘密だってちゃんとわきまえています」 「ひとつ」 「……まだあるんですか?」 「学校では俺のことを『言峰先輩』か、ただの『先輩』と呼ぶこと……これが最大限の譲歩だ」 この提案を拒否するなら縁切りも辞さない覚悟で───そんなコトが出来るなら是非やってみたいものだが───桜の目を真っ直ぐに見つめる。 「───分かりました。そこまで言うんでしたら、これからは士郎さんのコトを言峰先輩と呼ぶことにします」 ようやく分かってくれたかという満足とともに胸をなでおろす。 よしよし。これでアイツらの前で『お兄ちゃん』と呼ばれる自殺ものの未来を回避できたわけだな。 「しかしおまえも困ったヤツだな。せっかくアイツがいいとこのお嬢さんを集めたカトリック系の学校を紹介してくれたのに、中学ん時みたいに俺のと同じ学校を選びやがって」 「そんなに子供扱いしないでください。別に言峰先輩と一緒じゃなきゃ嫌だとまで思っていませんから」 気を緩めたのが悪かったのか、思わず口に出た本音にむくれた桜は、なぜか懐かしそうな顔をして──── 「……ただあの学校にはちょっと気になる人がいるから……」 そんな言葉を最後に続けられた食事もやがて終り。 気が付けば八時前を指していた柱時計に慌てて遠坂邸を後にした俺は─────── 【妬】桜の言っていた『ちょっと気になる人』が誰か無性に気になった。 【慌】いや、そんなコトより約束がある。生徒会の手伝いに行かないと。 【厭】面倒くさいのでパスパス。式が始まるまで弓道部で時間をつぶしていよう。 【焦】……やっぱり桜が気になる。まさか二度寝をするとかない……よな……? うたかたのユメ 第2話 うたかたのユメ
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1886.html
847 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/05/05(火) 04 17 18 ID tDbkFW2Q0 ────それはもう、十年も昔の話だ。 魔術師の家の当主である父親の手で、既に英才教育が始められていた長女が他家へ養子に出されるのは異例の事。 そもそも代々の研究の成果である“魔術”を伝える後継者は一人。それがこの世界の常識である。 師を殺して研究成果を奪おうとする弟子が後を絶たない魔術師の世界において、複数の後継候補を育てるなど非効率以前に災厄の素でしかない。 故に魔術師の家で二子が生まれた場合、その子は魔術から隔離され一般人として育てられる。 その習わしは、極東冬木の管理者である遠坂の家においても例外ではない。 あまりに優れた素養をもって生まれた為に急逝を恐れて二女を儲けはしたが、細心の注意を払って育てた長女が無事成長した以上、自身を含めた血族の研究成果をどちらに継がせるかは明白。 それが上の娘に魔術を教授するにあたっての遠坂時臣の結論だった。 その結論が揺らいだのは、古くからの盟友である間桐から二子の内どちらかを養子として貰い受けたいと申し込まれた時だった。 時臣は当初魔術師として常識的に考えて、二女の桜を養子にやることを決定した。 だが時臣には不安もあった。 時臣には選択の機会があった。 生誕と同時に生まれた家を継ぐことを運命づけられた彼には、それでも選択の機会があったのだ。 これは他ならぬ自分自身が選びとった道だという誇りが自分を支えた。 だが、はたして間桐の娘となるまで魔術の存在を知らずに育てられた桜に、そんな誇りを手にする機会があるか───時臣の不安はその一点に集約される。 実は魔術師の家系だった生家の都合で養子に出され、貰い受けられた他家の都合で魔術師にされるその道に、ただの一度も選択肢はあるまい。 ならばその運命に立ち向かう気概も生まれる筈がない───遠坂時臣は魔術師としてではなく、桜の父親として思い悩んだ。 ……凛が時臣の許を訪れたのはそんな時だった。 一体何処で耳に挟んだのか、彼女は父親に妹を養子に出すのは止めてほしいと訴えた。 娘の訴えに耳を傾ける時臣の脳裏に天啓が閃いたのもそんな時だった。 時臣は凛におまえたち二人のどちらか一人を養子に出さなければならないという『都合』を辛抱強く言い聞かせた。 その上で彼は選ぶ機会を与えたのだ。 つまり”おまえが間桐の家に行くか、それともこの家に残るか選べ”、と。 結論を言えば、凛は自らの意思で間桐の家に行くことを選んだ。 その家で待ち受ける運命も知らず、ただ父親の期待に応えんが為だけに────── 過去は色褪せ、未来は不鮮明。 己に許されたのは他人事のような現在だけ。 それが自分を育てた人たちの都合だったと、間桐凛は退屈そうに周囲を一瞥する。 周りには新しいクラスメイトと談笑する生徒たちの姿。 何が楽しいんだかと言葉にせず吐き捨てる。 教室の一番後ろに陣取る凛と、それ以外の生徒との間には埋めがたい断絶がある。 迂闊にも彼女に言い寄った三人の上級生の末路を思えば、誰だって好きこのんで話しかけようとは思うまい。 この学校で彼女から話しかける相手は三人で、物好きにも話しかける人間は二人。 そんな数少ない友人がこのクラスに配置されなかった時点で、凛の孤立は約束されていたも同然だった。 「あの、間桐さん?」 ……だと言うのに新たな物好きが一人。 おい、やめろよ由紀っちという制止の声に後ろ髪を引かれながらも話しかける少女。 「……なに?」 不機嫌そうな返事とは裏腹に凛は困っていた。 彼女は誰とも関わる気はなかった。 だがその結論は傷つくことを恐れてのことではなく、傷つけることを恐れてのこと。 四年前まで傷つくことを恐れての結論だったが、三年前のあの日から傷つけることを恐れての結論に変わった。 「あの……えーと、その……」 だから凛は困っていた。 目の前には如何にも善良そうな女の子が一人。 彼女はおずおずと遠慮がちに話しかけてくる。 「実はわたしたち陸上部の人間で、その……これから新入生の勧誘とか色々あって、結構遅くまで学校に残ってるからお弁当を作ってきたんですけど……」 「…………」 「ちょっと多めに作りすぎちゃって……もし良かったら間桐さんもどうかなって」 ……さてどうするか、と凛は返答に困る。 結論は出ている。 ジロリと横目で確認した少女の連れ───日焼けした少女は追い詰められた小動物みたいな顔をしていて。 もう一人の眼鏡っ娘も多少の関心はあれど歓迎とまでは言えない雰囲気だ。 ならば自分が参加しても息苦しい時間にしかならないだろう。 「悪いんだけど……」 だから凛が悩んでいたのは申し出を受けるか否かではない。 ただこんな自分を誘ってくれた女の子にどう答えればがっかりさせずに済むか──── 「……この後ちょっと用事があるからまた今度さそってもらえる?」 苦労して選んだ言葉を並べると、少女は驚いたように目を丸くした。 ……いや。目を丸くしているのは彼女だけではない。 背後の色黒はバカみたいにあんぐりと口を開け、もう一人の眼鏡っ娘は感心したような溜め息をもらしていた。 「悪いわね。そういうワケだからまた今度誘ってちょうだい」 「───はい。懲りずにまた今度誘ってみます」 その笑顔が胸に重い。 今日のところは傷つけずに済んだが、いつかこの娘の笑顔を裏切ることになるかもしれない。 予想外の答えを残した間桐凛は、青みがかった黒髪を優雅に靡かせて立ち上がり教室を後にした。 用事があるというのは嘘ではない。 間桐凛には用事があった。 屋上に呼び出した二人をとっちめるという大事な用が────── 屋上に出ると呼びつけた二人の姿があった。 「あら感心。今度は逃げなかったんだアンタ」 「ふ、ふざけるなよオマエ……」 「……で。何の用なんだ凛」 もっとも一人はバツが悪そうに肩を落としている程度だったが、もう一人は自らの意思で心臓の鼓動を止めかねない有様だった。 ある意味分際を弁えていると言えなくもない。 実際彼我の実力差は虎と仔猫のそれだ。気まぐれで捕食されかねない立場を自覚すれば、膝の震えも精一杯の抵抗と言えなくはない。 「───用か。用ね」 言えなくはないのだが、癪に障るのも確かだ。 自分と顔を合わせたくないがためだけに外泊を続ける義兄。 ……ようは家出だ。 三月の中頃から始まった今回の家出は実に三週間の長期に及び。 慎二の無断外泊に責任を感じた凛を心配させるのみならず。 あろうことか月々の限度額を超えて現金を引き出すとはなんたる狼藉。 おかげで今月の小遣いがパーになった凛は、それでも不満をぐっと堪えて慎二を探していたのに……。 『それよりどこかのあばずれと違ってさ、あの子結構かわいかったじゃんか』 『はん、見る目がないね言峰は。おまえも見たろあの胸!? あのあばずれの断崖絶壁とは雲泥の差だね!!』 さてどうしてくれようか、と慎二に微笑む。 いや、これは微笑むというにはあまりに獰猛な笑みだ。 間桐凛は牙を剥く肉食獣のように間桐慎二に微笑む。 「な、ななななななんだよ!? そ、そんな顔したって怖くないんだからな!!」 ……その反応に怒りが冷める。 どうして彼はそんなに恐れるのかという疑問の答えが自分の中にある。 義兄は自分を怪物のように恐れているが、その反応は正しいと認めざるを得ない。 彼は決して口外しまい。 あの日間桐邸の地下で見た自分の姿を──── 「……いいわ」 「い、いいって何がいいんだよ……」 「だからさっきの悪口は、今朝あんたを殴ったことでチャラにしといてあげる」 たしかに自分はもう人間とは言えないかも知れない。 あの家で繰り返された過酷な人体改造はこの肉体を根底から作り変えた。 それはもう取り返しがつかない。 人間に戻りたいと反旗を翻そうと結論は変わらない。 だけれど───いや、だからこそこの心は人間のものでありたい。 「もう怒ってない、だから自分の家に帰ってらっしゃい……いいわね慎二」 「はは……なんだよ、それならそうとはっきり言え……よ……?」 「おい慎二……! 凛───おまえに慎二に何かしたな!?」 「ええ、暗示をかけて眠らせたの。……これからする話は慎二に聞かせたくなかったからね」 糸の切れた操り人形のように倒れた慎二の体を揺する士郎に答える。 背中は扉に。唇は防音と人払いの結界を詠唱する。 「それじゃ本題にはいるけど……その前にいくつか約束してもらえる?」 「……約束ってなんだよ」 「わたしの質問に答える事と嘘は言わない事」 周囲には実力は不明ながら、魔術師である事だけは確かな『言峰士郎』との戦闘も考慮にいれ、第一階位の使い魔を待機させる。 「本当にお願いね? 慎二は許したけど……今のわたし、あんたを殺して死体を蟲に食わせかねないほど気が立ってるから」 この怒りは不当だろうかという自問に不当ではないという回答を得る。 今の自分を作ったのはコイツだ。 コイツが余計な真似をしなければ自分は昔のままだった。 だから今の自分の大元である言峰士郎という基盤に嘘があれば、間桐凛は崩壊する。 「───嘘は言わない。訊かれた事には答える。それって当然のコトだろ」 「……そうね。いつも通りのあんたで安心したわ」 誤魔化される事だけはないと確信して冷静さを取り戻す。 間桐の頸木から逃れた三年前のあの日に犯した過ちが『間桐凛』を不安定にする。 「それじゃ訊くけど────」 ●言峰士郎のステータス(現在凛ルート) *遠坂桜の対言峰士郎好感度初期値(+8)より+1 *間桐凛の対言峰士郎好感度初期値(+10)より+4 *間桐慎二の対言峰士郎好感度初期値(+10)より+1 *美綴綾子の対言峰士郎好感度初期値(+6)より+1 *柳洞一成の対言峰士郎好感度初期値(+8) *タイガースタンプ三個獲得 ●間桐凛のステータス(現在士郎ルート) *言峰士郎の対間桐凛好感度初期値(+6) *間桐慎二の対間桐凛好感度初期値(+12) *遠坂桜の対間桐凛好感度初期値(±18) *三枝由紀香の対間桐凛好感度(+6)より+2 【普】桜との関係を明らかにするために士郎の過去を追求する(凛視点、間桐凛の言峰士郎好感度変動不明) 【異】何か訊こうとしたら地面と接吻した(士郎視点、言峰士郎の間桐凛好感度変動不明、強制桜ルート勃発) 【藻】僕は地べたに這いつくばって二人の会話を聞いていたんだ……(慎二視点、強制慎二ルート勃発) うたかたのユメ 第8話 うたかたのユメ
https://w.atwiki.jp/galgerowa/pages/403.html
うたかたの恋人(中編) ◆tu4bghlMI 「さてと……お姫様二人は行っちまった。あんたはどうするさ?」 「…………」 目の前でバットを構え、こちらを威嚇する青髪の少女に向けてあたしは憎まれ口を叩いた。 ――強い。 間違いなく、彼女は今までこの島で戦った相手の中でも別格の強さだ。 明らかに戦士と言えるその威圧感。戦いに特化したその存在。 バットでぶっ叩かれた左腕は紫色に晴れ上がって、酷い熱を発している。 こりゃあ、しばらく使えないなと半ば確信。見事なまでに実直な一撃だった。 さてと、状況は最悪。 後ろにいるハクオロがこのアセリアとかいう奴をどうにか出来るとは到底思えない。 そもそも初めから知り合いだったらしい。つまりはハクオロがコイツに攻撃する可能性は極めて低い。 ならば説得? この場は武器を降ろし、あたし達が一ノ瀬を追う了承を得る――馬鹿か。 無理だな。この女も明らかに一ノ瀬に言い包められてる。 要するに奴は自分の罪をあたしに押し付ける策に出たのだろう。 人の心を動かすのは信頼。牙の無いウサギの顔をしながら他人に自分を信用させるのは奴の専売特許だ。 もしくは拳銃を拾い、戦闘を続行するか? ……それも無理。あたしが不穏な行動を取った瞬間、奴の獲物はあたしの頭蓋骨を叩き割るだろう。 きっかけが欲しい。少しだけ、銃を拾って逃げ出せるだけの余裕が……。 「アセリア、何故こんな事をする!! 私があゆに騙されているなど……」 「……どうして、止めなかった」 「何を――」 「私達がいなければ……コトミは殺されていた」 「!!!」 アセリアの眼光は鋭く、ハクオロを真っ直ぐ見つめていた。 ハクオロは……とんでもない衝撃、多分自分の中の価値観が崩壊するような類のショックを受けたのだろう。 仮面で覆われていない顔からサーッと血の気が消えていった。 ただアセリアの視線は強烈な怒気を孕んだまま、ハクオロを貫く。正直、仲間に向けて示す目付きには到底見えない。 でも、そりゃあお嬢ちゃん、アレだよ。 コイツはあたしが研究棟に乗り込むって宣言した時、頭の中で納得しちまったのさ。 『一ノ瀬ことみは殺されても仕方が無い』ってな。 一度芽生えた疑心暗鬼の種は駆逐出来ない。根を張り、木となり、延々と宿主に食らいつく。 裏切られた、騙された。 聖人君子みたいな綺麗事ばかり並べるコイツだって人間なんだ。 人の本性に触れたとき、誰だって冷酷になる時があるって訳さ。 一ノ瀬ことみは最低最悪の殺人鬼。ウサギの皮を被ったオオカミ、その事実を認識したんだろう。 「私は……ハクオロに酷い事を言った。ずっと……謝りたいと……思っていた」 ポツリ、ポツリとアセリアの独白が始まる。 「でも、今のハクオロ違う。どこかおかしい。 ……敵、それなら倒すだけ。だけど……アルルゥ言ってた。無闇に人を殺すのは駄目だって」 たどたどしい少女の言葉。 普段、こんな風に話すのに慣れていないのだろう。言葉は途切れ途切れで非常に聞き難い。 「ハクオロは……そいつの言う事は信じるのに、何で……コトミの言う事は信じない? 何が違う?」 「そ……れは……」 あたしは頭の中で舌打ちをした。駄目だ、完全に騙されている。 しかもこの女、相当に天然なのだろう。人を疑う事を知らないようなその眼、顔付き。 ……それが既に一ノ瀬の毒牙に犯されてしまっている訳か。若干、やり切れない気持ちになる。 そして明らかにハクオロの表情に変化が生まれた。 狼狽し、取り乱すだけだった奴に芽生えた――もう一つの迷い。 しかし―― 「アセリアさん――!!!!!!」 「ミナギ――なッ!! 」 あたし達の背後から女のものと思われる絶叫が聞こえた。あたしは思わず振り返った。 だがその時、既にアセリアはこちらを完全に無視し、隣を駆け抜けていた。 そう、そこにいたのは、一人の背の高くて髪の長い女と彼女に背負われた少年。 そして―― 無防備な背中を晒す二人に襲い掛かる、剣を持った青年の姿だった。 ■ 青の少女は疾走する。 だがいかに彼女の身体能力があたしの常識の範疇からこれでもか、というぐらいはみ出しているとはいえ、物には限度と言うものがある。 ガウスだとかケプラーだとかドルトンだとかアンペールだとか、明らかに関係ないものばかりだがソレはどうでもいい。 無から有を生み出すのも、有を無に還すのも不可能。とりあえずコレだけは覚えておけ。 つまり数十メートル先で襲われかかっている連中を救うにはどれだけ全力で走っても間に合わない。 無駄な事はするもんじゃないさ。OK? だから生まれた。これで――絶対的な隙が。 「ハクオロッ!!」 「あゆ?」 予想通り、ハクオロは事態を掴めていなかった。 とはいえアセリアを追って髪の長い女の所へ走って行こうとしていたのは流石と言うべきか。 見知らぬ人間だろうと困っていれば助ける。そんな甘い人間だから今こうして一緒に居るんだろが。 大体考えても見ろ。 まず、小競り合いしている所へ変な男に襲われている少女と少年が現れたと仮定する。 ここで口論していた連中はどんな行動を取るだろう。 普通は何も出来ない。突然の状況の変化に手足がブルったり、頭が回らなかったり、とにかく色々だ。ボンヤリとその"異常"に飲み込まれる。 だがあの女やハクオロのような人間ならば、助けるという選択肢もあるかもしれない。 それじゃあ、あたしはどうするか。そんなの――決まっている。 「……逃げるさ、ハクオロ」 「な……あゆ、何を言っているんだ!?」 「いいから、ほら来いや!!」 すぐさま地面に転がった拳銃を回収し、未だ収まりの付かないハクオロを引っ張って一ノ瀬達が消えた道に向かう。 ハクオロはもちろん抵抗するが、あたしはそんな意思汲み取る気はまるで無い。強引なまでに腕を掴んで全力で駆ける。 遥か遠くにいるアセリアが私達が逃げ出そうとしている事に気付いたようだが、時既に遅し。どちらかと言えば、襲われている青年達の方が彼女の立ち位置ならば近いぐらい。 そう、つまり最高の好機だったのだ。 「……どういうつもりだ」 「……そう目くじら立てるんじゃないさ。あたしも少し強引過ぎたとは思ってるよ」 ハクオロを引きずって病院のあるエリアの下部、左右に別れる道を右に――つまり山側へと少し進んだ地点であたし達はようやく足を止めた。 左か右、二人がどちらに逃げたのかは分からない。 だが、奴の行動パターンからして禁止エリアによって極端に移動が制限される海側は無いと読んだ。 「一度お前とことみは話し合うべきだ。確かに、一ノ瀬ことみには不可解な点が多い。とはいえ……」 「そうさね……でも、多分……ちと難しいかなぁ」 「……何故だ?」 ハクオロは尋ねた。 「もしも、もしもさ……あたし達が同じテーブルに着いたとしても。 あたしは多分、眼を合わせた途端アイツを攻撃しちまうさ」 何気なく言った。 和解……ね。ハクオロのこちらを見つめる視線が少しばかり痛い。 仲間と離れ、ついさっき知り合ったばかりの小娘に良い様に連れ回されてる現状をこの男はどう考えるのだろうか。 おそらく……このままあたしを見捨てて、仲間達と合流するかどうか思案していると見た。 まぁソレが自然な思考。あの二人組は完全に一ノ瀬に騙されている。故に大空寺あゆという存在と同行していたハクオロに対しても嫌疑の眼を向けたのだと思う。 あの状況下で一ノ瀬ことみを否定する材料があたしの発言しか無い以上、逆にこちらが嘘を言っていると思っても仕方ない。 しかし、どうしたもんかね。 やっぱり一人でも何とかするしか無いのか……。 「おい」 「……あ?」 「何をしている……ことみを追うんだろう? ならば、こんな所でグズグズしている暇は無いんじゃないか?」 「……馬鹿? アンタ、あたしを見捨てようとか思わない訳?」 あたしは呆れた。目の前のお人よしは事もあろうに、こちらに手を差し出したのだから。 それは握手。つまりこの歪な関係をそのまま続行する、という意思表明。 「――信じる、と言った筈だ。それに一ノ瀬ことみも佐藤良美も殺させる訳には行かないからな」 「殺させないって……じゃあ、何か!? あいつらを目の前にして、あたしに黙ってろとでも言う訳かい? そんなの真っ平御免だね!! 裁かれるだけの事をした下衆を生かしておく理由なんて無い!!」 あたしは怒りに満ちた声と共にハクオロの言葉を切り捨てた。 殺すな? コイツ頭の中に蟲でも湧いてるんじゃ無いだろうか。 「違う」 「…………」 「本当に、本当に彼女達が殺しに乗った罪人だと言うのならば……」 ハクオロは自らの右手を数秒の間じっと見つめ、そして、強く握り締めた。 「その時は――私がお前の代わりにこの手を汚す、と言う意味だ」 それは何かを決意した人間の眼だったのかもしれない。 強く、そして揺るぎのない美しさ。 あたしはしばらくハクオロの瞳を見つめそして――小さく笑った。 本当にこいつは、底なしのお人よしで甘ちゃんで……それ以上に大きな男だ。 【E-6 平原(マップ下部)/2日目 早朝】 【大空寺あゆ@君が望む永遠】 【装備:S W M10 (3/6) 防弾チョッキ 生理用品、洋服】 【所持品:予備弾丸10発・支給品一式 ホテル最上階の客室キー(全室分) ライター 懐中電灯】 【状態:生理(軽度)、肋骨左右各1本亀裂骨折、強い意志、左前腕打撲(しばらく物が握れないレベル)】 【思考・行動】 行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみと佐藤良美は絶対に逃さない。 1:一ノ瀬ことみを追う(当面の目的地は温泉) 2:二人を殺す為の作戦・手順を練る 3:ことみと良美を警戒 4:ハクオロをやや信用しつつもとりあえず利用する 5:殺し合いに乗った人間を殺す 6:甘い人間を助けたい 【備考】 ※ことみが人殺しと断定しました。良美も危険人物として警戒。二人が手を組んで人を殺して回っていると判断しています。 ※ハクオロの事は徐々に信頼しつつあります。多少の罪の意識があります。 ※支給品一式はランタンが欠品 。 ※生理はそれほど重くありません。ただ無理をすると体調が悪化します。例は発熱、腹痛、体のだるさなど ※アセリアと瑞穂はことみに騙されていると判断しました。 【ハクオロ@うたわれるもの】 【装備:なし】 【所持品:なし】 【状態:精神疲労、左肩脱臼、左肩損傷(処置済み)、背中に大きな痣、腹部に刺し傷(応急処置済み)】 【思考・行動】 基本方針 ゲームには乗らない。 1:ことみを追い、彼女が本当にゲームに乗った人間ならばあゆの代わりに手を汚す。 2:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す 3:瑛理子が心配 4:悠人の思考が若干心配。(精神状態が安定した事に気付いてない) 5:武、名雪(外見だけ)を強く警戒 6:自衛のために武器がほしい 【備考】 ※オボロの刀(×2)は大破。 ※あゆを信頼しました。罪は赦すつもりです。 ※シーツに包まれた衛の遺体を担いでます。 ※ことみの事を疑っています。 ※衛の死体は病院の正面入り口の脇に放置。 □ 夢。夢を見ていた。 それはほんの数日前の記憶のようで、それでいてどこか懐かしい、とりあえず良く分からない光景だった。 俺は前へ進んだ。 何も考えずただ真っ直ぐ、両足の思うままに。 いくつもの扉をくぐる。鉄、木、石、ガラス、宝石。 手触りは本物のようにざらついていたり、滑らかだったり。とにかく色々だ。 とにかく不思議な夢だった。 紙と木で出来た扉、その先に女がいた。 それは見知らぬ女だった。 それは美しい女だった。 それは素晴らしい女だった。 丸みを帯びた柔らかそうな身体も、口元の朗らかな笑顔も。 はっきりとその姿が見えた訳では無いのに、思わず心臓の鼓動が早くなる。 色素の薄い髪に、低い背。丸みを帯びた曲線と直線が入り混じった身体のライン。 十代半ばにも満たない少女でありながらどこか、不思議な存在感に満ち溢れていた。 俺は彼女に話し掛けた。 何を喋ったのかは分からない。ただ女はこちらを見つめたまま、ピクリとも動かない。 黙って俺を視線の海に沈めるだけだった。 どれくらいの時間が経ったのだろう。 俺はまるで反応を返さない女に多少の違和感を覚えつつも、それでも話し続けていた。 身振り手振りを交え、懸命に、彼女が振り向いてくれるように。 ただただ必死に言葉を紡いだ。 そして、俺がすっかり疲れ果て、絶望しかけたその時、彼女はついにその口を開いた。 俺は歓喜に打ち震えた。その薄紅色の唇が動く度に俺の中の何かが変わっていくような気がした。 だが、困った事に何を言っているのか。それがまるで分からなかった。 ああ、言語の問題ではない。 争点は純粋にボリューム。つまり、彼女の声が小さ過ぎて聞こえないのだ。 俺は耳を凝らした。 せっかく喋ってくれたのに、聞き取れないなんて間抜けな結末は無い。 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 そして、ついに、彼女の言葉は……俺の脳内へと届いた。 ――どうして…… え? ――どうしてあなたはずっと……自分の喉を掻き毟っているのですか? □ 「――ッ!!」 私、遠野美凪は突然の闇夜を切り裂くような火薬の爆発音に身体を竦ませた。 方向は……南。 気付いた時にはもう病院の中へと連れ込まれていたのだが、武さんと圭一さんが出会った時"私もそこにいた"のだ。 もちろん、病院を訪れるのも二回目。 つまり音の原因は南部に位置する研究棟付近。 ……どうするべきなのでしょうか。 私は頭を悩ませるしかなかった。 なぜなら、今この空間において意識を保っている人間は私、遠野美凪ただ一人なのだから。 倉成さんは背中を強く殴打され、気絶。ん……でも若干手が動いている。もしかして彼も眠ってしまったのだろうか。 圭一さんはこれまでの疲れが祟ったのか、膝の上で可愛い寝顔を見せたまま眠っている。 今まで一緒に行動していたメンバー、つまり瑛理子さんや沙羅さんと言った皆さんはここには居ない。 この島にやって来てからずっと側にはリーダー代わりの人物がいた。 それは圭一さんであり、倉成さんであり、そして国崎さんでもあった。 私は沙羅さん達のように戦う力を持ってはいない。 同じ女でありながらその差は歴然。 つい今だって私にもう少しだけ力があったなら。倉成さんを倒すまで行かなくても何とか退けるだけの力があったなら。 事態がこんなに複雑化する事も無かった筈なのだ。 そして、今。私は自分で選択しなければならない状況に追い込まれた。 銃声、すなわちこのすぐ近くで戦闘が行われている証拠に他ならない。 最も適切な行動はおそらく、圭一さんを起こす事。だが決闘が終わってすぐに眠ってしまう程のダメージを彼は負っている。起こしてもすぐに適切な判断が出来る可能性は低い。 では――逆に倉成さんを起こす、というのはどうだろう? いや……それも難しい。彼は未だH173という未知のウィルスに感染している。 身体の自浄作用に期待するなんて所詮、淡い希望でしかない。 C120というセットとになる抗生物質が無ければ完全な治癒は難しいのだろう。 でも確かにあの瞬間、私達三人の心は通じ合ったと思う。 信じる事。 それは少しむず痒いようで、それでいて何処か落ち着く不思議な響き。 倉成さんは最後の最後、気絶する直前に確かに元の彼に戻ったんだと思う。 意志の力。 信じる力。 ソレさえあればどんな逆境が迫ってきても何とか出来る。 私はそんな奇跡をほんの数刻前に実際にこの眼で見た。 治せる、絶対に何とかなる。絶対に――助ける事が出来る筈なのだ。 「う……」 「……圭一さん?」 「美……凪さん?」 彼が、目を覚ました。 別に私が何かをした訳でもないのに、圭一さんが突然パチリと目を開いた。 膝上、どうしてこうなっているのか把握できないのだろう。ゆっくりと身体を起こす。 「俺……」 「はいっ、圭一さんは……勝ったんですよ。倉成さんに――」 私は嬉しくなった。言葉が自然と唇から漏れる。 だから思わず圭一さんを抱き締めようとした、その時だった。 ――彼が目覚めたのは。 ■ 「武さん……?」 圭一さんが私の背後に向けてとても意外そうな、唸りにも似た声で彼の名前を呟いた。 彼は私達から二、三メートル離れた地点、ゆっくりとまるで夢遊病者のような足取りで立ち上がった。 ……おかしい。 だって倉成さんは圭一さんと違って"気絶"していた筈なのだから。 気を失うにしてもその理由は色々とある。脳震盪から不整脈、衝撃による失神など様々。 でも相当深い傷を負っていた事だけは確か。紙一重ながら戦闘に勝利した筈の圭一さんでさえ、出血が酷い。 今すぐにでも手当てをしなければ大変な事になってしまうかもしれない。 「う……」 「……美凪さん、少し下がっていてくれ」 圭一さんも私の側にあった剣を掴み武さんに対抗するように腰を上げる。 剣を正眼に構え、彼を一瞥。でも無理をしているのは明らか。荒々しい呼吸音が院内の闇に木霊した。 「俺は……ぐッ……!!」 「武さん!?」 私達が警戒を強めたのも束の間、倉成さんは喉元を押さえながら廊下に倒れ込んだ。 頭から崩れ落ちる、絶望的な仕草で。 でもそんな、目の前でのた打ち回る彼を見た時、私の身体は自然と動いていた。 ――助けたい。 それが単純な理由だった。 武さんの"心"を取り戻したのが圭一さんならば、私は彼の"身体"を出来るだけ正常に近い姿にしてあげたいと思った。 デイパックから医療用の救急箱を取り出し、倉成さんに接近する。 「美凪さん!! 危険だ!!」 「……大丈夫です、きっと」 「だけどっ!」 「伝わった筈ですから……私達の想い、武さんに。だから……信じましょう」 もちろん圭一さんはそんな私の行動に眉を顰めた。 だけど、私には今の倉成さんを無視する事なんて出来なかった。 「倉成さん、大丈夫ですか」 「ぐが……ぁ……はぁっ……み……な、ぎ?」 「落ち着いて。大丈夫、大丈夫です」 改めて見ると彼の傷は全身に及んでいた。 小さな刃物によって付けられた物だろうか、無数の切り傷。それに加え脇腹と肩には酷い銃創。シャツに血が滲んで既に変色している。特にここは十分な治療が必要のようだ。 喉元を抑えるようにかがみ込む倉成さん。アセリアさんから預かった"冥加"は少し離れた所に落ちている。 おそらく武器は持っていないのだろう。 ……大丈夫です。脅える必要は……無い筈。 「武さん、服を切ります。少しだけ……我慢してください」 彼の血染めのTシャツをまずどうにかしなければ止血も消毒も出来ない。 本人に脱いで貰うのが一番簡単なのだろうが、身体の震えが止まらない彼にソレを期待するのは酷だ。 私は箱の置くから衣服切断用のハサミを取り出して、また一歩彼に近付いた。 「み……なぎっ!! なんだ……"ソレ"は?」 「何って……えと」 彼は私の右手に握られた20cmほどのハサミを震える指先で指し示しながら、後ずさる。 ガチガチとぶつかり合う歯。見開かれた眼。 まるで拳銃でも突き付けられているかのような過剰な反応だ。 「……手当てをするのに……その、服が邪魔なんです」 「…………嘘だ」 「え?」 「だま……されるかよっ!! そんな太いナイフ、持ちながら『手当て』だと!? 俺を馬鹿にするのも大概にしろッ!!」 ナ……イフ? 思わず右手を見直す。そしてソレは間違いなくナイフなどではなかった。 倉成さんは一体、何を言っているのだろう。後方の圭一さんも彼の摩訶不思議な発言に戸惑っている。 廊下に不穏な空気が溢れた。 「……そうか、そうか、そうか!! おい、圭一、一つ……言っておきたい事がある」 「武……さん」 「いいから聞け。黙って、だ。聞かれた事だけに答えろ、無駄口を叩くな」 口を開いた倉成さんはこちらが戸惑うくらい饒舌だった。 いや、言葉尻がしっかりしていたと言うべきか。 話し方自体はまるで、私達と出会った時の彼のようだった。 だけど、変だ。何かが違う。 まず言葉の中身。H173の影響が出て明らかに可笑しくなってしまった時点と比較しても……何かが妙なのだ。 話の筋自体は通っているものの、ソレは酷く屈折していてどこか暴力的だ。 そしてもう一つ。 指が、倉成さんの指が――まるで身体の中から肉を掻き出すように喉を穿り返しているのだから。 それは異常な光景だった。 気持ち悪い。思わず胃の中の消化物が込みあがってくるような、そんな感覚さえ覚えた。 倉成さんの右手の爪はもうほとんどが剥がれ落ち、肉と骨だけになった五指は赤い軌跡を描きながら尚も蠢く。 蟲、そう蟲だ。 真っ赤に染まり、闇の中をゆっくりと這いずり回る醜い幼虫。ぶよぶよの身体を揺らす芋虫。 もはや私にとって、彼の指は紅色の蟲にしか見えなくなっていた。 奏でる皮と肉と骨の摩擦、聴覚を支配する生々しい神経を引き千切る音。 気付いた時、私は手に持っていたハサミを取り落とし圭一さんのすぐ側まで後退していた。 私が振り絞った勇気はそんなにちっぽけなものだったのだろうか。 自らに戒めた"信じる事"の意味は脆くも崩れ去ったのだろうか。 ……違う。これは疑心や欺瞞ではなく、それよりもっと根源的な――本能としての逃避だ。 「俺は……言った。『お前の信じる力で俺を救ってみろ』と」 「ああ、確かに……言ったぜ。そして俺はそのために全力を尽くす、その言葉に嘘偽りは無い!」 圭一さんは、それでも臆さない。疲れ果てている筈の身体をゆっくりと起こし立ち上がり、私の前に立つ。 倉成さんの奇行が眼に入っていない訳が無いのに。 思わず目を逸らしてしまうような凄惨な光景にも関わらず、真っ直ぐと彼を見る。 「俺も思ったさ。それじゃあ、少しだけでも信じてみようかな、って。だけどな……」 「武……さん」 「俺にはっ……お前達が分からない!! 何故笑う、何故俺を嘲笑う!? 俺を信じたんじゃ無かったのか? まだ殺し合う気なのか? どうして、どうして、どうしてっ!!!」 「武さん、しっかりしてくれっ!!」 台詞の途中、倉成さんの身体が突然震え出した。 両手を喉にあて、何かに縋るように強く、強く、それを握り締める。 自傷なんて段階じゃない。 もはや……これは……。 「あ、あ、あ、あ、あ、――ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」 閃光が走った。 倉成さんは懐から数十センチ程の小さなナイフを取り出し、真っ直ぐ――投げつける。 そして一直線に投擲されたソレは、完璧な狙いで圭一さんの首元に突き刺さる。 ほんの一、二秒の間に行われた動作。 だけど、それでも、私達の間で培われた全てを打ち壊すには……それは十分過ぎる一撃だった。 ■ 赤い鮮血。地面に倒れ行く圭一さん。狂ったように叫び声をあげる倉成さん。 全ての時間がゆっくりと進行して見えた。 私は思った。きっと倉成さんの言う通りだったのだ、と。 彼がH173に感染したのはおそらく、私達と出会う前。 しばらくの潜伏期間を置いて、そのウィルスは倉成さんの身体を蝕み、そして発症した。 だけど今のこの惨状を見れば、今までの不信な言動さえ可愛く見える。 そう、まだアレはこの病気にとっては"軽度の症状"だったのだ。 おそらく今のこれが末期症状……。完全なる理性の喪失、凶暴化、喉を引っ掻き続ける奇行。 そして――時は進み始める。 「あああああああ!! 圭一ぃいいいいいいいいいい!!!!!」 倉成さんは叫び続ける。 ガリガリと喉に爪の無くなった指を這わせ、締め付けながら。 地面に膝を付き、這いずり、必死に私達から遠ざかろうとする。 私はその光景に恐怖した。 恐ろしくて一人で逃げてしまいたくなった。 だけど、そんな事出来る訳が無い。 目の前で苦しむ圭一さんを置いて自分だけ助かろうなんて到底無理な話だ。 言葉にしにくい感情。表現したとしても、どこか恥ずかしいそんな感情が裏側に無いと言えば嘘になる。 私自身も上手く消化できない複雑でモヤモヤした意識が胸の中で渦巻いている事は認める。 だけどそれ以前に、"倉成さんに殺される"という気持ちよりもずっと――"圭一さんを失う事"の方が怖かった。 倉成さんは私達から必死に遠ざかろうとしている。それはつまり、そういう事だ。 もう自分にはその衝動を抑える力がほとんど残っていないという意思表示。 私は圭一さんの腕を取り……駄目だ。身体から完全に力が抜けてしまっている。 これでは肩を貸す形で移動するのも困難。それならばいっそ背負ってしまった方がいい。 元々、私の方が圭一さんより数センチ背が高い。 それ程筋肉質、という訳でもない彼の身体は思った以上に軽く、容易く背中に乗せる事が出来た。 一歩を踏み出す。二歩目、三歩目、小走り程度の速度なら移動は可能だ。 数十メートル離れ、もう病院の三階の端と端に位置する辺りまで移動した時。 背後から絶え間なく聞こえていた倉成さんの叫び声がピタリと止んだ。 私は思わず背後に視線を送る。そしてそこで――倉成さんが私達を見ていた。 そして彼は傍らに落ちていた"冥加"を掴み、コチラを見据え口元に恐ろしい笑みを浮かべる。 ニヤリ、ニマリ、ニタリ……どれとも違う。それは、狂気と殺欲に染まった、殺人鬼の微笑だった。 □ 俺、前原圭一が目を覚ました時、世界は慌ただしく揺れていた。 俺が、空が、世界が、脳味噌が、揺れていた。 上下左右アトランダムに振り回される感覚は好きじゃない。 風を切る音も、微妙に濁った視界も、首の辺りから感じる激しい痛みも、血の匂いもその嫌悪感を増加させる。 何で、どうしてこんな事になったのだろう。 記憶は曖昧で、不鮮明であやふやだ。 後頭部に一発ツッコミでも入れられれば、意識は覚醒したかもしれない。 だけど、そんな展開を期待するのは少々難しい。なぜなら、この空間には、レナも魅音も沙都子も詩音もいないのだから。 "いない"と言ってもその判別には二つの区分がある。 つまりまるで違う場所にいる、故に今は側にはいない、という場合の"いない" コレは魅音と沙都子が該当する。逆に"いる"のが梨花ちゃんだ。 もう一つの"いない" 婉曲的な言い方をすれば既に命を持って"いない"、という場合。 死んでしまった、と言えば分かり易いだろうか。 これに当て嵌まるのは――レナと詩音。あとは大石さんもそうかな。 沢山の知り合いが死んでいった。 だけど俺は未だ誰一人としてアイツらに出会ってはいない。 生死に関係なく、だ。死んでしまったなら死んでしまったで、精一杯の供養はしてやりたい。 こんな島の中で埋葬もされずに放置されるなんて、そんな悲しい最期、皆には味合わせたくないから。 もはや生き残っているのは俺と梨花ちゃんだけだ。 ゲームが開始してからもうすぐ三十時間。なのに梨花ちゃんについての情報は全く手に入らない。 会いたい……な。きっと寂しがっている、怖がっている筈だから。 「圭一……っ……さん!? 意識が……」 声が聞こえた。聞き慣れた声だ。 それは前でも無く、後ろでもなく、左右でもなく、勿論上でもない。下、だ。 俺は、誰かに背負われていた。 目の前の背中は短く息を吐き出しながら、廊下を駆け抜ける。微かに香るシャンプーの匂い。長い髪。 そして伝わってくる暖かな人肌の感触。 「み……な…………ん」 驚いた事が一つ。 どうやら声が出せない、という事。もっとも完全に沈黙、では無く上手く発声出来ない、と言ったほうが適切ではあるが。 おそらく武さんが投擲したナイフが丁度喉元に刺さったのが原因だと思われる。 血液が溢れて、微妙に声の通りが悪くなっているのだろう。 だが、まともなリアクションを一切返さないと言うのも不自然だろう。 俺は薄れゆく意識の中で、二回彼女の肩を軽く叩いた。 「…………圭一さん。…………えと、覚えて……ますか。私達が初めて会った時の事」 美凪さんが唐突に切り出した。 俺は彼女の背後、返事の代わりに一度だけ頷いた。 背中に目が付いている訳でも無いだろうに、彼女はまるでストップウォッチで計ったような完璧なタイミングで次の言葉を紡いだ。 「殺し合いが始まってすぐ。私、もしかして何もかもが夢じゃないのかって……そう思いました」 それは少し寂しげな、古いアルバムを取り出して感想を述べているような哀愁に満ちた告白だった。 俺はぼんやりと美凪さんとの初対面のシーンを頭に思い浮かべる。 ほんの一日とちょっと前の話なのに、やけに遠い昔の事のように感じるのはどうしてだろう。 そうだ――武さんだけじゃない、美凪さんと出会ったのもこの場所だった。 正確には少し離れた場所、だけどマトモに話をしたのも『お米券』という不思議な紙を貰ったのも全部ここだった。 暖かな記憶。まだ俺が美凪さんの事を遠野さんと呼んで、美凪さんが俺の事を前原さんと呼んでいた頃の話。 『日常』の色が抜けず、『異常』を否定したいと思っていた頃の話。 「でも……現実でした。観鈴さんも……往人さんも死んでしまった。 冷たくなった往人さんの身体、魂の入っていない器の重さ……多分、一生忘れる事はないと思います」 俺の身体を支える美凪さんの手が少し震えた。 「だけど圭一さんが居てくれたからこそ……私は今、こうして生きていられるんだと思います」 揺れが一瞬、大きくなった。 おそらく今、階段を降りているのだろう。 後ろの方から訳の分からない妙な叫び声が聞こえて来る気がするが、アレは一体何なのだろう。 「…………」 「……」 彼女は黙ってしまった。俺も少しだけ、眠くなる。 こうやって彼女の背で揺られていると何故か安心する。心が落ち着く。 ずっとこうしていたくなるような―― あ……れ? 背後から美凪さんの身体を抱き締めるように回していた俺の腕に冷たい雫が触れた。 それは天井からの水滴、という訳では無い。多分、 「泣……い…………」 「あれ、おか……しいですね。私、もう泣いたり……っするつもりは無かったのに……」 最後の言葉は涙で滲んでよく聞こえなかった。 両腕を俺を背負うために使ってしまっているため、拭う事が出来ない液体は雨粒のように美凪さんの頬を伝い落ちる。 キラキラと光を反射しながら廊下にぽろぽろと流れる。 俺は不思議だった。 どうして、どうして泣いているのだろう。俺が知る限り、彼女がこの島で涙を流したのはたった一度だけ。 武さんに連れ去られていく彼女の瞳からこぼれた涙。それは『国崎往人の死体を発見した時』だった。 もう一人の探し人、神尾観鈴さんの死を知らされても彼女は気丈にも涙を流したりはしなかった。 ならば何故? 何故、美凪さんは――? 今、まるで『誰かが命を落とした時』のように、その両眼から熱い雫を流しているのだろう。 何とか、しなくちゃいけない。本能的にそう思った。 前原圭一は仲間のため、大切な人のためならどんな無理だって押し通す。 最後まで信じてやる。精一杯身体を張ってやる。そんな、人間の筈だ。 だけど今の俺は彼女の涙を止めるための最良の方法なんて思いつかない。 上手く言葉には出来ないけれどこれは友情や信頼というよりも、どちらかと言えばもっと他の――少しだけ恥ずかしくなってしまいそうな言葉が関係しているような気がしたからだ。 悲しい事に俺、前原圭一はそういう話題に対してはとことん無知である。 同年代の女の子ならともかく、いくつが年齢の離れた年上の女性に関しては尚更の話。 何をしたら喜んでもらえるのか、どんな言葉を掛ければいいのか。まるで頭に浮かんでこない。 加えて今、俺はまともに喋る事も出来ない。つまり例の異名も形無しって訳だ。 何も、出来ない? ……いや、違う。今の俺にだって美凪さんを慰める事は出来る筈だ。 ん――待てよ。 一つだけ、まともなやり方を思いついた。 そうだ、あの時も彼女は寂しそうな顔をしていた。 だけどあの時の俺は今みたいにウダウダ考えた挙句の行動じゃない、身体が勝手に動いていた筈だ。 手を伸ばす。天より低く、空より低く、だけど誰よりも高い場所へ。 それは――俺達が初めて出会った時、悲しみに満ちた表情を見せる彼女を元気付けるために行った何気ない動作だった。 俺は自分より少し背の高い彼女の頭を、もはやほとんど力の通らない手でぶっきらぼうに撫でた。 髪の毛をグシャグシャに、グシャグシャにする。 彼女の黒くてとても綺麗な長髪は――あっという間にボサボサになった。 美凪さんはようやく俺の方を振り向くと、驚いた顔を少しだけ浮かべ、また前と同じように笑った。 彼女の顔は、髪の毛と同じくらい涙でグシャグシャになっていた。 だけど俺にはそんな彼女が今、何よりも美しく見えた。 181 うたかたの恋人(前編) 投下順に読む 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 時系列順に読む 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 小町つぐみ 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 千影 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 一ノ瀬ことみ 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 宮小路瑞穂 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) アセリア 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 前原圭一 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 遠野美凪 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 倉成武 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) ハクオロ 181 うたかたの恋人(後編) 181 うたかたの恋人(前編) 大空寺あゆ 181 うたかたの恋人(後編)
https://w.atwiki.jp/touhoukashi/pages/1771.html
【登録タグ う ランコ 少女煉獄第参巻 曲 月まで届け、不死の煙 豚乙女】 【注意】 現在、このページはJavaScriptの利用が一時制限されています。この表示状態ではトラック情報が正しく表示されません。 この問題は、以下のいずれかが原因となっています。 ページがAMP表示となっている ウィキ内検索からページを表示している これを解決するには、こちらをクリックし、ページを通常表示にしてください。 /** General styling **/ @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight 350; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/10/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/9/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/8/NotoSansCJKjp-DemiLight.ttf) format( truetype ); } @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight bold; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/13/NotoSansCJKjp-Medium.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/12/NotoSansCJKjp-Medium.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/11/NotoSansCJKjp-Medium.ttf) format( truetype ); } rt { font-family Arial, Verdana, Helvetica, sans-serif; } /** Main table styling **/ #trackinfo, #lyrics { font-family Noto Sans JP , sans-serif; font-weight 350; } .track_number { font-family Rockwell; font-weight bold; } .track_number after { content . ; } #track_args, .amp_text { display none; } #trackinfo { position relative; float right; margin 0 0 1em 1em; padding 0.3em; width 320px; border-collapse separate; border-radius 5px; border-spacing 0; background-color #F9F9F9; font-size 90%; line-height 1.4em; } #trackinfo th { white-space nowrap; } #trackinfo th, #trackinfo td { border none !important; } #trackinfo thead th { background-color #D8D8D8; box-shadow 0 -3px #F9F9F9 inset; padding 4px 2.5em 7px; white-space normal; font-size 120%; text-align center; } .trackrow { background-color #F0F0F0; box-shadow 0 2px #F9F9F9 inset, 0 -2px #F9F9F9 inset; } #trackinfo td ul { margin 0; padding 0; list-style none; } #trackinfo li { line-height 16px; } #trackinfo li nth-of-type(n+2) { margin-top 6px; } #trackinfo dl { margin 0; } #trackinfo dt { font-size small; font-weight bold; } #trackinfo dd { margin-left 1.2em; } #trackinfo dd + dt { margin-top .5em; } #trackinfo_help { position absolute; top 3px; right 8px; font-size 80%; } /** Media styling **/ #trackinfo .media th { background-color #D8D8D8; padding 4px 0; font-size 95%; text-align center; } .media td { padding 0 2px; } .media iframe nth-of-type(n+2) { margin-top 0.3em; } .youtube + .nicovideo, .youtube + .soundcloud, .nicovideo + .soundcloud { margin-top 0.75em; } .media_section { display flex; align-items center; text-align center; } .media_section before, .media_section after { display block; flex-grow 1; content ; height 1px; } .media_section before { margin-right 0.5em; background linear-gradient(-90deg, #888, transparent); } .media_section after { margin-left 0.5em; background linear-gradient(90deg, #888, transparent); } .media_notice { color firebrick; font-size 77.5%; } /** Around track styling **/ .next-track { float right; } /** Infomation styling **/ #trackinfo .info_header th { padding .3em .5em; background-color #D8D8D8; font-size 95%; } #trackinfo .infomation_show_btn_wrapper { float right; font-size 12px; user-select none; } #trackinfo .infomation_show_btn { cursor pointer; } #trackinfo .info_content td { padding 0 0 0 5px; height 0; transition .3s; } #trackinfo .info_content ul { padding 0; margin 0; max-height 0; list-style initial; transition .3s; } #trackinfo .info_content li { opacity 0; visibility hidden; margin 0 0 0 1.5em; transition .3s, opacity .2s; } #trackinfo .info_content.infomation_show td { padding 5px; height 100%; } #trackinfo .info_content.infomation_show ul { padding 5px 0; max-height 50em; } #trackinfo .info_content.infomation_show li { opacity 1; visibility visible; } #trackinfo .info_content.infomation_show li nth-of-type(n+2) { margin-top 10px; } /** Lyrics styling **/ #lyrics { font-size 1.06em; line-height 1.6em; } .not_in_card, .inaudible { display inline; position relative; } .not_in_card { border-bottom dashed 1px #D0D0D0; } .tooltip { display flex; visibility hidden; position absolute; top -42.5px; left 0; width 275px; min-height 20px; max-height 100px; padding 10px; border-radius 5px; background-color #555; align-items center; color #FFF; font-size 85%; line-height 20px; text-align center; white-space nowrap; opacity 0; transition 0.7s; -webkit-user-select none; -moz-user-select none; -ms-user-select none; user-select none; } .inaudible .tooltip { top -68.5px; } span hover + .tooltip { visibility visible; top -47.5px; opacity 0.8; transition 0.3s; } .inaudible span hover + .tooltip { top -73.5px; } .not_in_card span.hide { top -42.5px; opacity 0; transition 0.7s; } .inaudible .img { display inline-block; width 3.45em; height 1.25em; margin-right 4px; margin-bottom -3.5px; margin-left 4px; background-image url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2971/7/Inaudible.png); background-size contain; background-repeat no-repeat; } .not_in_card after, .inaudible .img after { content ; visibility hidden; position absolute; top -8.5px; left 42.5%; border-width 5px; border-style solid; border-color #555 transparent transparent transparent; opacity 0; transition 0.7s; } .not_in_card hover after, .inaudible .img hover after { content ; visibility visible; top -13.5px; left 42.5%; opacity 0.8; transition 0.3s; } .not_in_card after { top -2.5px; left 50%; } .not_in_card hover after { top -7.5px; left 50%; } .not_in_card.hide after { visibility hidden; top -2.5px; opacity 0; transition 0.7s; } /** For mobile device styling **/ .uk-overflow-container { display inline; } #trackinfo.mobile { display table; float none; width 100%; margin auto; margin-bottom 1em; } #trackinfo.mobile th { text-transform none; } #trackinfo.mobile tbody tr not(.media) th { text-align left; background-color unset; } #trackinfo.mobile td { white-space normal; } document.addEventListener( DOMContentLoaded , function() { use strict ; const headers = { title アルバム別曲名 , album アルバム , circle サークル , vocal Vocal , lyric Lyric , chorus Chorus , narrator Narration , rap Rap , voice Voice , whistle Whistle (口笛) , translate Translation (翻訳) , arrange Arrange , artist Artist , bass Bass , cajon Cajon (カホン) , drum Drum , guitar Guitar , keyboard Keyboard , mc MC , mix Mix , piano Piano , sax Sax , strings Strings , synthesizer Synthesizer , trumpet Trumpet , violin Violin , original 原曲 , image_song イメージ曲 }; const rPagename = /(?=^|.*
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1944.html
45 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/07/28(火) 04 14 06 ID KmJbWd8U0 視認も許さぬ剣の雨。魔弾の射手は自身に倍する敵を物ともしない。 「なに───これは……!」 「イリヤスフィース、退がって……!」 黒い剣士が足止めを余儀なくされ、白い剣士は踏み込むことも出来ない。 最優の剣の騎士が二人。所在の知れた弓の騎士を間合いに捉える事も適わず。 勝敗は、その初撃をもって決したかのような有様だった。 「……嘘、こんな事って……」 「あれ、どうしたんですか? そんなに驚いた顔をしちゃって?」 「っ……馬鹿にして! もう謝っても許してあげないんだからッ!!」 思わず漏らしたイリヤスフィールの呟きに、絶対の勝利者として君臨するアーチャーは、残酷なまでの優しさをもって嘲笑する。 「セイバーッ、そいつの宝具は“弓”よ! 強力だけど数が少ないから無駄撃ちを誘って!!」 「了解しました! イリヤスフィールは射程外で待機を!!」 「そんな事は言われるまでもない! 黙っていろ!!」 アーチャーの嘲弄に激昂したかに見えたイリヤスフィールは、だが冷静だった。 何も正体不明の射出宝具を正面から受ける事はない。 速射を得意とする弓兵に迫るのではなく、その周囲を旋回することで魔弾の切れ目を見つけるこの試みは、しかし……。 「躱せぬ……だと……?」 「ぐっ……ここで真横からくるか……?」 躱した筈の因果逆転の槍に背中を抉られた白い剣士が転倒し、旋回する進路を妨害するように現れた鎚矛に脇腹を撃たれた黒い剣士が宙を舞うこと で終わった。 「あれ? これで終わりかな?」 そうして放たれる止めの一撃。 白い剣士が立ち上がるより迅く、黒い剣士が着地するより迅く、魔弾の射手は躱しようもない瞬間に四挺の宝剣を放つ。 「ありゃりゃ、躱されちゃいましたか」 ……その一撃を予見していたように防いだのは流石ではあるが。 「今の槍か……いや、それはいい。問題は私の背を抉った槍が何処に消えたかということだ……」 「この攻撃は似ているが違う……あの男のように単調な攻撃なら如何様にも対処できた……」 だが状況は何も変わっていない。 二人のセイバーは、未だにアーチャーの攻撃を捉えられずにいる。 何らかの宝具による攻撃を受けていることは理解できても、その正体、その原理は想像すらできない。 ……そう。 油断とも慢心とも無縁なこのアーチャーは、射撃の瞬間───つまり己の手の内を見せることすら許していない。 その宝具を戦場となった空き地が跡形もなく破壊されるほど使用しているにも関わらず、超音速で飛来する物体すら視認するサーヴァントが二人も その瞬間に存在しているにも関わらず、である。 「休んでいる暇はありませんよ二人とも」 「『づ……っ!』」 その理由は『運用法』の違い。 アーチャー───英雄王ギルガメッシュの宝具である“王の財宝”とは、そもそも撃ち出される“蔵”の中身ではない。 彼の宝具は黄金の都へ繋がる鍵剣。此方と彼方の空間を繋げ、宝物庫の中にある道具を自由に取り出せるのがその能力である。 だがそれならば、なにも此方の周囲に『待機』させる事はない。 彼の青年体は己の財を周囲に侍らせ、その威容、その事実をもって自らの名を高らかに謳い上げることを好んだが、幼年体はその手順を無駄と断じ た。 召喚、展開、待機、射出という四つの工程と、召喚、直ちに射出という二つの工程のどちらがより戦闘に適しているかは一目瞭然。 それに加えて数に任せて撃ち出すのではなく、相手の進路を妨害する足止めや、本命の攻撃を当てるための牽制を交えるとあらば、その効果は飛躍 的に高まるというもの。 その総量は後の世に散逸した全ての宝物を含むという英雄王の財。 そして使用者の財があればあるほど強力な宝具となる王の財宝。 「セイバーさんの戦いぶりは賞賛に値しますけど……そろそろ飽きてきたので終わりにしますね?」 「うわあああ……!」 「ぐああああ……!」 それ故に奮闘した二人の剣士が、王の財宝を巧みに使いこなした幼年体に敵わぬのは当然のこと。 「『っ……これしきの傷で……』」 利き腕と利き足を潰されてなお立ち上がる二人の騎士。 それを感心したように見やるアーチャーは無敵の存在だった。 ……むしろ。 いやだからこそ彼の敵は……。 “───痴れ者め。アレは王である我の物だぞ!?” “───うるさいなあ。さっきからワケが分からないコトをわめかないでくださいよ、もう” 今は魂の奥底に沈殿するもう一人の自分だった。 “ふん、やはり貴様には解らぬか。王にはな、王に相応しい勝利というものがあるのだ。貴様の戦いには王の誇りというものが決定的に欠けている” “……例えば?” “例えば……そうだな、高笑いだ” “……………………………………” “我ならば我が財を見せつける。騎士王の心を絶望に染め上げるほどの数を見せつけて、恐怖に彩られた顔をゆるり鑑賞してだな、我こそが唯一の王 である事を理解させた上で軍門に降す。───それこそがこの我に相応しい勝利というものではないか” “……そうして手の内を晒して反撃されるんですね慢心王(あなた)は” “慢心せずして何が王かッ!?” “だからあなた(慢心王)みたいになりたくないって言ってるんですッ!! ……知ってますよ。聖杯さえ背にしていれば攻撃されることはないと高をくくったあなた(慢心王)がどんな醜態を晒したか” “だから貴様には王の誇りが分からぬという。……良いか。己の道というのはな、損得勘定で破棄していいものではない。最後まで貫いてこその道で あると知れ” “で──────王の道は慢心であると言うんですね?” “如何にも” “あはは、もう死んでくれないかなこの人……!” 「ふうん……思ったよりやるじゃない、貴方」 内なる意思と決別した少年が呆れたような少女の声で我に返る。 見れば戦闘不能に追い込んだはずの二人も傷を癒して再起していた。 「でもセイバーに止めを刺さなかったのはいただけないわ……なに、余裕のつもり?」 ……その言葉が胸に痛い。 アーチャーとしては別に余裕のあまり敵の再起を許したわけではない。 だが傍目には慢心の極地と見えるもの事実。 せめてもの救いは恥ずかしい自問自答を聞かれなかったことだけ……。 「……まあいいじゃないですか」 バツが悪そうな顔をしたアーチャーは照れ隠しに微笑み続ける。 その頬を神経質に痙攣させて。 その顔に自暴自棄と自嘲すら浮かべて──── 「セイバーさんの一人や二人、はっきり言ってボクの敵ではありません。どうしても倒したければ、せめてその三倍は数を揃えてもらわないと」 「ええ、最初からそのつもりよ」 ……眉をひそめたのは一瞬だった。 「な────?」 第三の攻撃を王の財宝に防がせたアーチャーは言葉を失った。 振り向いた先には、可憐極まりない騎士の姿。 性別を偽装するための武装ではなく、際立たせる武装を纏いし少女。 「セイバー・リリィ、参る」 それがアーチャーに襲いかかった。 「くっ……!」 剣撃の苛烈さは先の二人に劣るものではない。 セイバー・リリィと名乗ったこの少女。 生まれながらに王の娘として育てられたこの騎士姫は、騎士王に勝るとも劣らぬ強敵……! 「だが対処できないほどじゃないッ」 白い剣士と黒い剣士を退けたのと同じ手並み───絶対に回避できない剣群を見舞う。 「────させぬよ」 だがその攻撃は第四の騎士によって阻まれる。 「アーサー……余計な手出しを」 「やれやれ、気難しい姫君もいたものだ。これが異なる世界の“私”とは、愉快と言っていいものかどうか」 ……今度は男性だった。 どこか皮肉な笑みを浮かべた騎士───不可思議な障壁で王の財宝を防いだ騎士王は、騎士姫を庇ってアーチャーの前に立つ。 「……あやや。本当に六人いますね、これ」 もはや驚く気にもなれない。 イリヤスフィールの隣には、明らかに員数合わせくさいメイドセイバーが姿を現し。 その後ろには、明らかに偽物くさい仮面の騎士まで姿を現そうとしていた──── 「言ったでしょう、わたしの“セイバーたち”は最強だって」 勝ち誇る少女に答える気にもなれない。 だが答えないわけにはいかない。 なぜなら彼は英雄王ギルガメッシュ。 たとえ未熟な幼年体であろうと、その誇りだけは譲れない。 「───悪いんですけど」 だから彼は言った。 その頬を悪戯に歪めて。 その顔に茶目っ気とツッコミ待ちの表情すら浮かべて──── 「急用を思い出しました。命拾いしましたね、みなさん」 47 :うたかたのユメ ◆6l0Hq6/z.w:2009/07/28(火) 04 17 22 ID KmJbWd8U0 ○アナウンス *イリヤスフィールの登場と六騎のセイバーの登場をもって『聖杯戦争勃発フラグその3』の成立となります。 *残るフラグは空席の四つに誰が納まるかで決まります。 ●言峰士郎のステータス *遠坂桜の言峰士郎に対する好感度初期値(+8)より+2 *間桐凛の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+8 *間桐慎二の言峰士郎に対する好感度初期値(+10)より+6 *美綴綾子の言峰士郎に対する好感度初期値(+6)より+1 *柳洞一成の言峰士郎に対する好感度初期値(+8) *言峰可憐の言峰士郎に対する好感度初期値(±0)より+2 *タイガースタンプ一個獲得。 ●遠坂桜ステータス *言峰士郎の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+1 *間桐凛の遠坂桜に対する好感度初期値(??)より+4 *間桐慎二の遠坂桜に対する好感度(+12)より+4 ●間桐凛のステータス *言峰士郎の間桐凛に対する好感度初期値(+6)より+6 *遠坂桜の間桐凛に対する好感度初期値(±18)より-4 *間桐慎二の間桐凛に対する好感度初期値(+12) *三枝由紀香の間桐凛に対する好感度(+6)より+2 ●間桐慎二のステータス *言峰士郎の間桐慎二に対する友情度初期値(+6)より+6 *遠坂桜の間桐慎二に対する軽蔑度初期値(±0)より-4 *間桐凛の間桐慎二に対する哀れみ度初期値(+6)+1 *言峰可憐の間桐慎二に対する嗜虐度初期値(-256)より+2048 【正】そのころ言峰士郎に誘われた間桐慎二はうだるような熱気のなか全裸で切ない吐息を漏らしていた(慎二→士郎の好感度上昇、可憐→慎二の 嗜虐度上昇) 【生】そのころ間桐凛の寝間着を脱がせて裸にした遠坂桜は一糸まとわぬその身を重ねようとしていたとかいないとか(桜→士郎の好感度上昇、凛←→桜の好感度上昇)? 【聖】イリヤスフィールの事情と、なぜか六人もいるセイバーそれぞれの事情(タイガースタンプ一個獲得) うたかたのユメ 第17話 うたかたのユメ